ダンテ・アリギエーリ「神曲」に登場する世界2:煉獄篇
前項で述べたように、ダンテは古代ギリシャの詩人であるウェルギリウスの案内によって9つの世界に分かれていた地獄を抜けた。
キリスト教的な世界観として、地獄と共に罪を償わなければならない世界として存在する「煉獄」がある。煉獄とは、簡潔に言えば天国にも地獄にも行けなかった者の行く場所なのだが、この場所にて天国へ昇るために、多くの人たちが浄罪を行う場所となっている。ここで罪を清められれば昇天することができると考えられる。
ダンテが神曲で描いた煉獄は、当時のキリスト教的世界観を踏襲している。魔王が堕ちて空いた地獄の穴が地球の反対側で盛り上がってできた山が煉獄山である。この煉獄山も基本的には9つの世界(山を取り囲む「環」と表現される)に分かれている。この煉獄山を上に上がるにつれて人間は浄化されて行き、最終的に頂上から天国へ昇ることができるのである。ダンテも同様に煉獄山入口において7つの大罪の象徴である「P」の文字を7つ、天使によって額に入れられ、一つ上がっていく毎にこの印が消えていくようになっている。
概要
煉獄篇
煉獄山に登り始めるまで
ダンテとウェルギリウスを、煉獄山の番人となった小カトーが待ち構えている。どうやって来たかを問う。
人間は地獄へ行くものはアケローン河へ落とされ、煉獄へ行くものはこのテーヴェレ河へ天使によって連れてこられるのだ。
煉獄前域
第一の台地 破門者
教会から破門されてしまった者は、臨終において悔い改めたとしても煉獄の最も外側から浄罪を始めなければならない。
第二の台地 遅悔者
信仰を怠り、生前の懺悔が遅く臨終に際してようやく悔い改めた者が連れてこられる場所。
悔悟が遅かった者が嘆きの歌を歌う。ダンテ達に肉親への伝言を託す。
13世紀の詩人ソルデッロが、偶然に会った同郷の偉人であるウェルギリウスに挨拶を乞う。
イブに禁断の木の実を勧めた蛇が現れるが、天使がそれを追い払う。
夜になったためダンテらは眠りにつくが、ダンテは夢の中で鷲にさらわれてしまう。しかしこれは聖ルチーアが救っていた。
ペテロの門
聖ルチーアに助けられたダンテは煉獄山の入り口にあたるペテロの門の前に連れてこられた。色の分けられた三段の最上部に座った天使がダンテの額に7つの「P」を剣で記した。
第一の環 高慢者
煉獄山内部に入った二人はまず一番外側の環に出る。ここでは生前に高慢な心を持った者たちが重い石を背負っている。ダンテ自身はここが自身の来るべき場所だろうと悟る。
ギリシャ神話でアテーネーを皮肉り、それを責められて自殺したアラクネーの魂が下半身を蜘蛛にして嘆いている。
第二の環 嫉妬者
嫉妬に身を焦がした者たちが瞼を縫い付けられて盲人のごとくとなり嘆いている。
第三の環 憤怒者
憤怒を悔いた者たちが、もうもうと湧き上がる煙の中で祈りの声を上げる。
第四の環 怠惰者
怠惰を悔いた者たちが、ひたすら愛に追い立てられて環を駆けて周回する。
第五の環へ登る前に、二人の前にセイレーンが現れる。セイレーンはこの上の環である貪欲、暴食、愛欲という欲の権化なのだ。
第五の環 貪欲者
生前貪欲だった者たちが、悔い改めるためにひたすら地面に這いつくばって欲望を消滅させて罪を清めようとしている。ここでダンテはカペー朝の創始者であるユーグ・カペーや、教皇ハドリアヌス5世らと対面する。
第六の環 暴食者
生前暴食だった者が、決して口に入れられない果実を前に欲望を節制している。ここにはダンテの友人だったフォレーゼがいた。またフォレーゼは、この中に清新体の創始者であるボナジェンタを見つける。
第七の環 愛欲者
不純な愛欲に耽った好色者たちが、互いに抱き合って悔い改める。抱き合う時に貞操を守った者の名を呼びあったり、「ソドムとゴモラ」などと叫んでいる。
山頂 地上楽園
8つの煉獄を経た二人は遂に煉獄山の頂上である地上の楽園へたどり着いた。ここは人類が黄金期に住んでいた場所そのものだと言う。そしてウェルギリウスは自身の役目を終えたことをダンテに告げたのだった。池のほとりではマテルダ夫人が楽園のことを謳う。
ウェルギリウスと別れたダンテは再び一人となり、楽園の森の中をさまよう。そして車を引いたグリフォンと、24人の長老と会う。グリフォンはキリストの象徴なのだ。
歌声が響き、花が舞い散ると車の上に淑女ヴェアトリーチェが起き上がった。ヴェアトリーチェは朱い衣をまとって七人の天使を従えていた。
ダンテはヴェアトリーチェから過去の行状を非難されて卒倒する。レーテ河に身をひたされて、過去を悔い改める。
続いてエウノエ河の水を飲む。甘く、いくら飲んでも飽きない水だった。
頂上から昇天し、ダンテはヴェアトリーチェと共に天界を遍路することになる。
天国篇へ続く