NHK大河ドラマ その2(1970~1974年)

      2016/05/05

日本のテレビ放送は大河ドラマが始まる前からカラー放送が開始されていたが、受像機が高価であり大きく普及している状況とはいい難かったが、68年頃より国内家電各社が安価な受像機を大量に販売するようになり、NHKも68年から受信料契約にカラー契約が設定された。このような状勢から、NHKもソフトウェアの充実を図る意味で人気番組でフラッグシップ的な大河ドラマをカラー放送化した。

また、70年代前半にNHK大河を説明するうえで大きな意味を持つものがいわゆる「ご当地ブーム」の始まりである。前々作「竜馬がゆく」前作「天と地と」から本格的なご当地での撮影が始まり、その撮影場所が視聴者の興味を引き、庶民の生活もレジャーを楽しむ余裕が生まれてきたこともあり一大ブームを引き起こすことになった。

 樅ノ木は残った

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放送年月日 昭和45(1970)年1月4日-12月27日
シリーズ放送回数 52回
最高視聴率/平均視聴率 27.6% / 21.0%
主人公(演者) 原田甲斐(平幹二朗)
主な題材 江戸中期に起きた伊達騒動に際し、事態収拾に奔走した伊達家家臣・原田甲斐の生涯を描く。
原作※存在する場合 山本周五郎「樅ノ木は残った」(毎日新聞、新潮社)
脚本 茂木草介
音楽 依田光正
主な出演者 吉永小百合、森雅之、佐藤慶、栗原小巻、香川京子、三田和代、宮口精二、大出俊、伊吹吾郎、高橋昌也、金田龍之介、若林豪、花沢徳衛、藤岡琢也、西村晃、佐藤友美、志村喬、芥川比呂志、加東大介、岡田英次、辰巳柳太郎、尾上菊之助、田中絹代、北大路欣也
語り 和田篤アナウンサー

 概要

・それまで希代の逆臣との評価を受け、遺品を持っているだけで毛嫌いされたという原田甲斐の評価を180度転換させた山本周五郎の原作を映像化し、現在に至る原田甲斐の映像イメージを作り上げた作品。

・原作は伊達騒動から始まるが、本作はそれ以前の甲斐の青春時代をオリジナル脚本で描いた。

 エピソード

・本作は重厚な内容で初期大河の傑作という評価が定着しているものの、放送当時は暗すぎるとか、オープニング映像が怖いと言ったネガティブイメージが先行した。特に当時本作を見ていた子供はオープニングの能面にトラウマを持ってしまった者が多い。

・本作が初めて当地ロケを多用したシリーズとなった。同時に大河ドラマ放送によるご当地ブームが起きた最初の作品だった。甲斐の御膝元では観光誘致が行われた。国鉄も盛んに本作のアピールを行い、企画旅行はほぼ満員の盛況だったという。またWikipediaによると、観光地では樅の林を1本だけにして他を切ってしまい本当に樅の木が残った状態にしてしまったと言う。

・オープニングに使用した能面は重文級の文化財で撮影時には所有者が直接撮影に臨み、スタッフも万一に備えて厳戒態勢で行われた。

 春の坂道

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放送年月日 昭和46(1971)年1月3日-12月26日
シリーズ放送回数 52回
最高視聴率/平均視聴率 27.5% / 21.7%
主人公(演者) 柳生宗矩(中村錦之助)
主な題材 柳生新陰流創始者の柳生宗矩の生涯を、徳川が天下統一する時代を絡めてその生きざまを描く。
原作※存在する場合 山岡荘八「春の坂道」(日本放送出版協会)「徳川家康」(大日本雄弁会講談社)
脚本 杉山義法
音楽 間宮芳生
主な出演者 小林千登勢、長門勇、原田芳雄、松本留美、芥川比呂志、京塚昌子、田村亮、清水綋治、倍賞美津子、土屋嘉男、内田朝雄、加藤嘉、若林豪、島田正吾、高橋英樹、舟木一夫、岸田今日子、中村芝鶴、奈良岡朋子、司葉子、市川海老蔵、山村聰
語り 福島俊夫アナウンサー

 概要

・山岡荘八に原作書き下ろしを依頼した実質的なオリジナルドラマ。脚本にする際には同「徳川家康」からもエピソードが取られた(「徳川家康」は昭和58年に大河ドラマ化)。

 エピソード

・本作はカラー化後の作品としては最も映像が残っていない作品となっている。現在残っているのは視聴者から寄贈されたモノクロ家庭用ビデオによる最終話のみとなっている。このことから「幻の大河」などと言われる。

・「幻」などと表現されているが、本作は中村錦之助(萬屋錦之助)が始めて柳生宗矩を演じ、その柳生宗矩は後に錦之助が幾度となく演じることとなる生涯の当たり役となった。錦之助は本作を演じるにあたり柳生新陰流を体得、また石舟斎を演じた芥川比呂志の鬼気迫る演技が話題となり、現在の柳生に伝わる剣術のイメージを作り出した作品となった。

・前作同様、ご当地観光誘致が盛んに進められ各地で大変な盛況となった。特に国鉄は折からのSLなどによる鉄道ブームとあって、ご当地となった奈良に臨時列車「柳生号」などを多数増発しても満員となり、沿線に鉄道ファンが多数押し寄せた。

 新・平家物語

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放送年月日 昭和47(1972)年1月2日-12月24日
シリーズ放送回数 52回
最高視聴率/平均視聴率 27.2% / 21.4%
主人公(演者) 平清盛(仲代達矢)
主な題材 平家一門の盛衰を清盛の生涯を中心にして描く。
原作※存在する場合 吉川英治「新・平家物語」(朝日新聞社)
脚本 平岩弓枝
音楽 冨田勲
主な出演者 中村玉緒、中村勘三郎、山崎努、若尾文子、新珠三千代、高橋幸治、木村功、志垣太郎、栗原小巻、小山明子、加東大介、野村万之丞、田村正和、水谷八重子、和泉雅子、藤田まこと、緒形拳、芦田伸介、片岡孝夫、北大路欣也、森雅之、小沢栄太郎、佐久間良子、滝沢修
語り 渡辺美佐子(オープニングのみ)、福本義典アナウンサー

 概要

・吉川英治の同作を原作とするが、平氏の家族に焦点を当てた物語とした。これは本作を合戦物とは捉えず、平家のホームドラマとしての一面を描くという方針が有ったためである。

・本作は再度各回毎の副題が無くなった。

 エピソード

・本作は、テレビ放送20周年大河ドラマ10周年の記念すべきシリーズとして、過去の大河主演級はもとより錚々たる役者がキャスティングされ、将に当時のオールスターキャストだった。

・「天と地と」以来合戦物であるものの、「天と地と」とは打って変わって冒頭の厳島神社ロケ以外は全てスタジオ撮影となった。スタジオ撮影が基本となったのは、テレビ草創期の原点に還る、という意図が込められていた。

・脚本の平岩弓枝はもともと「肝っ玉母さん」「ありがとう」シリーズなどもともとはホームドラマを得意としているが、それが今回に起用された理由でもあった。

・スタジオ内に制作されたセットは本格的なもので、大河ご当地ブームも相まって「どこで撮影されたのか?」という問い合わせが殺到した。

・オープニングの背景画像は有名な厳島神社奉納の「平氏納経」であり、オープニング最後の部分に移る経典は般若心経である。

・多数のスターに囲まれて義経を演じた志垣太郎がアイドル的な人気を集め出世作となった。

 国盗り物語

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放送年月日 昭和48(1973)年1月7日-12月23日
シリーズ放送回数 51回
最高視聴率/平均視聴率 29.9% / 22.4%
主人公(演者) 織田信長(高橋英樹) 斉藤道三(平幹二朗)
主な題材 道三と信長の生涯を、道三の下剋上から明智光秀による本能寺の変までを通して描く
原作※存在する場合 司馬遼太郎「国盗り物語」(新潮社)ほか
脚本 大野靖子
音楽 林光
主な出演者 池内淳子、松坂慶子、三田佳子、宍戸錠、山本陽子、火野正平、樫山文枝、金田龍之介、山田吾一、松原智恵子、米倉斉加年、江守徹、杉良太郎、竹脇無我、林隆三、伊吹吾郎、露口茂、佐藤友美、伊丹十三、千秋実、中野良子、西村晃、大友柳太朗、近藤正臣
語り 中西龍アナウンサー

 概要

・本作は司馬遼太郎の同名の作を原作としているが、司馬遼太郎の他の歴史小説である「梟の城」「新史太閤記」「功名が辻」などのエピソードを合わせて脚色している。

・原作は斉藤道三、織田信長、明智光秀までの天下統一の道のりをリレー形式で描いており、本作もそれに則っているものの、実質的な主役は織田信長である。また、明智光秀は本作において主役と言える回は最終回の本能寺の変後の回のみであり、主役というよりは準主役的な立場だった。

・本作から再度副題が付くようになった。

 エピソード

・前作からの転換という意味も込めてか、オールスターキャストから若手中心のキャストへ、スタジオ撮影から大掛かりなロケの敢行へと作品の質が変わった。

・当初信長役は藤岡弘に決まっていたが、藤岡が仮面ライダーの仕事が入ってしまい急遽高橋が抜擢された。高橋は本作によって現在の役者としての地位を築き、その演技は大変な評判となった。特に「で、あるか」という信長の発するセリフは流行語となり、その後の信長を演ずる役者にも大河であるか関係なくイメージとして定着し、引き継がれていくことになった。同様に道三のイメージは平、光秀のイメージは近藤のイメージが長く定着した。

・昭和天皇が本作の大変なファンだったことは有名。制作現場をわざわざ訪れ、出演者に「見てるよ、見てるよ」と声を掛けられ、スタッフに熱心に細かいことまで質問されていた。司馬遼太郎が謁見した際にも本作について質問された。

・本作は初めて51回放映となった。翌年はまた52回に戻っていることから、当年の日の並びの関係と考えられる。

 勝海舟

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放送年月日 昭和49(1974)年1月6日-12月29日
シリーズ放送回数 52回
最高視聴率/平均視聴率 30.9% / 24.2%
主人公(演者) 勝海舟(渡哲也→松方弘樹)
主な題材 勝海舟の一代記を、佐幕勤王どちらにも属さず大局的な見地から切り抜けていく姿を描く。
原作※存在する場合 子母澤寛「勝海舟」(日正書房、創元社)
脚本 倉本聰→中沢昭二
音楽 冨田勲
主な出演者 大原麗子、久我美子、丘みつ子、大谷直子、垂水悟郎、米倉斉加年、石橋蓮司、江守徹、藤岡弘、萩原健一、戸浦六宏、板東八十助、原保美、宍戸錠、津川雅彦、加東大介、中村富十郎、小林桂樹、尾上松緑
語り 石野倬(アナウンサー)

 概要

・本作は後述する現場での混乱にも関わらず視聴者からの評判は概して良く、現在でも名作との評価を得ている。

・本作で演じた松方弘樹の勝海舟、藤岡弘の坂本龍馬のイメージは後々まで定着した。特に龍馬が暗殺されるシーンで藤岡がピストルを持って絶命するシーンの演技は史実かのようなイメージを植え付けた。

 エピソード

・本作の制作現場は大変に荒んでいたことは他メディアや関係者の証言などで多数報じられた。根底にあったのは当時NHK内で力を持っていた労働組合の存在があった。

・当初主役の渡哲也は収録中に急性肋膜炎にかかり絶対安静の病状となった。そもそも、渡は撮影当初より健康状態が思わしくなかったことが関係者の証言で分かっている。にも拘わらずプロデューサーや演出関係者がこの状況を制作部長へ報告せずに結果的に見て見ぬふりをしてしまったため、生真面目な渡は自己の仕事を全うするために押して演技してしまったことが事態につながったと考えられる。最終的に倉本聰が直訴して交代となるが、これが新たな火種になる。

・本作が倉本聰にとって初の大河ドラマ脚本で、且つ途中降板をした初めての脚本家となった(現在でもトラブルによる脚本家の交代はない)ことは有名である。倉本自身の回想や報道などによると、倉本の現場での方針と演出の一人であって組合員だった勅使河原平八がしばしば衝突していた(ただし他演出家とは特に軋轢は無かった)。倉本が改善を局に申し入れると勅使河原はなお態度を硬化させて、組合に対し局員ではない倉本を組合方針に従わないとして訴えたところ、局側が組合に屈する形で倉本に謝罪を求めるに至った。倉本はこの際は折れて謝ったものの、後にこの状況を批判的に報道したい講談社が「ヤングレディ」記者に倉本を取材させ批判的な発言を引き出そうとした。倉本は本記事の掲載に対し雑誌発売前日まで原稿校正を行わせたが、刺激的にしたい講談社は見出し文を変更せずに倉本がNHKに「爆弾発言」するかのような形で見出しを出してしまった。内容は見出しとは全く違うものだったが、これをみたNHK側は態度を硬化させ倉本に過度な謝罪を要求、更にNHK内で倉本を吊し上げるような行為を行った。これを以て倉本は作家人生が終わったと感じ、そのままの足で北海道へ逃避行、しばらく脚本は航空便で送っていたが後に降板となった。倉本はそのまま北海道に居付き、後に「北の国から」などの北海道を中心にした作品制作にあたることは周知のとおりである。

・交代で主演を演じた松方弘樹は、渡降板にあたって多忙な中、倉本と東映の社長であった岡田茂と会談した。しかし前例の無い事で決めかねていたが、岡田から直にお願いされるにあたって結局承諾、その日のうちに渡の家に電話した。渡とは話せなかったものの、渡の妻からお願いしますと言われ、渡の弟である渡瀬恒彦からも兄を助けてやってくれと言われた。

・ところが松方は収録中の現場でたびたび不満を持っていたようで、本作終了後「サンデー毎日」の取材で現場に対する不満をぶちまけ、「NHKはモノを作るところでは無い」と発言し、松方も倉本と同様、この後長い間NHKから遠ざかることになる。

・上記のような現場の状況であったにも関わらず、同時代は度々題材に選ばれながら「大河で幕末維新物は流行らない」とされている中で本作が最高の平均視聴率だった作品である。

その3へ続く

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